法令文の読み書きは,本当にいやになってしまいます。
例えば,政治資金規正法第6条は次のような規定です。これがさほど抵抗なく読めるのであれば問題はありませんが,どうでしょうか。日本語であるから読めるだろうと思ったらえらい目に遭います。
ただ,ほんのわずかなことを頭に入れておくだけで大分違います。そのわずかなことは,条文の後に。
(政治団体の届出等)
第6条 政治団体は、その組織の日又は第3条第1項各号若しくは前条第1項各号の団体となつた日(同項第2号の団休にあつては次条第2項前段の規定による届出がされた日、第19条の7第1項第2号に係る国会議員関係政治団体として新たに組織され又は新たに政治団体となつた団体にあつては第19条の8第1項の規定による通知を受けた日)から7日以内に、郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項に規定する一般信書便事業者、同条第9項に規定する特定信書便事業者若しくは同法第3条第4号に規定する外国信書便事業者による同法第2条第2項に規定する信書便によることなく文書で、その旨、当該政治団体の目的、名称、主たる事務所の所在地及び主としてその活動を行う区域、当該政治団体の代表者、会計責任者及び会計責任者に事故があり又は会計責任者が欠けた場合にその職務を行うべき者それぞれ1人の氏名、住所、生年月日及び選任年月日、当該政治団体が政党又は政治資金団体であるときはその旨、当該政治団体が第19条の7第1項第1号に係る国会議員関係政治団体であるときはその旨及びその代表者である公職の候補者に係る公職の種類、当該政治団体が同項第2号に係る国会議員関係政治団体であるときはその旨、同号の公職の候補者の氏名及び当該公職の候補者に係る公職の種類その他政令で定める事項を、次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に届け出なければならない。
1.都道府県の区域において主としてその活動を行う政治団体(政党及び政治資金団体を除く。次号において同じ。) 主たる事務所の所在地の都道府県の選挙管理委員会
2.2以上の都道府県の区域にわたり、又は主たる事務所の所在地の都道府県の区域外の地域において、主としてその活動を行う政治団体 主たる事務所の所在地の都道府県の選挙管理委員会を経て総務大臣
3.政党及び政治資金団体 主たる事務所の所在地の都道府県の選挙管理委員会を経て総務大臣
(わずかなこと)
1 用字用語
① 副詞は,「必ず」「既に」「全く」「余り」「殊に」「更に」「例えば」「特に」「併せて」のように原則として漢字を用いて書く。ただし,「かなり」「やはり」「よほど」のように,当て字の要素の濃いものは仮名で書く。
② 接続詞は,「おって」「かつ」「したがって」「ただし」「また」「ゆえに」「あわせて」のように,原則として仮名で書く。ただし,「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の4語は,例外的に漢字混じりで書く。
③ 補助体言としての「こと」「とき」「ところ」「もの」「ほか」,「…とともに」の「とも」,補助用言としての「いる」「ある」「できる」「みる」「くださる」等は,仮名で書く。
④ 古い法令では促音(つ)が大きな字で表記されていた。
2 「及び」「並びに」と「又は」「若しくは」
(1)「及び」と「並びに」の使い方
いくつかの語を併合的につなぐ場合,単層的につなぐときは,「及び」をまず用い,「A,B,C及びD」のように表わす。重層的につなぐときは,大きな(外側の)接続に「並びに」を,小さな(内側の)接続に「及び」を用い,三層以上のときは,「並びに」の方を何重にも用いる。したがって「A及びB並びにC(Eを除く。)」と規定されていれば,A,B,C間に意味上特別の遠近関係がない限り,かっこ書きはCにのみ働く趣旨で規定されていることになる。
(2)「又は」と「若しくは」の使い方
いくつかの語を選択的につなぐ場合,単層的につなぐときはまず「又は」を用いますが,重層的につなぐときは,大きな(外側の)接続に「又は」を一回だけ用い,小さな(内側の)接続に「若しくは」を必要に応じ何層にも用いる。上の場合と,一部逆な感じになっている。
3 準用と読替え
法令の規定には,様々なものがあるが,基本パターンは,「ある人やその行為その他の事象がAという要件に該当するときは,Bという効果を生ずる」(AならばB)という形をとっている。他にも,「Cという要件に該当するときは,Bという効果を生じない」とか,「Dという要件に該当するときは,Aの要件に該当するものとみなす」等々の規定もあるが,その多くは,「AならばB」という規定のバリエーションである。
同様に,準用規定や読替適用の規定も,「A」には該当しないが,これと類似のA’という人,行為,事象について「A’ならばB」ということ(準用の場合),あるいは「A」の一部に含まれる「A1」について「B」を変形した「B’」の効果を生じる,即ち,「A1ならばB’」ということ(読替適用の場合)ということを,「準用する」,「読み替える」という形で表現しているものである。
したがって法令の基本的な構造は単純なはずだが,それでも難しいといわれるのは,「AならばB」の「A」や「B」が長すぎたり,「A」の部分が「A1」「A2」……と分れていたり,「B」の部分が「B1」「B2」…と分かれていて,それを並列的あるいは重畳的につないで書いた結果,複雑になっていることが原因であることが多い。
なお昭和60年に内閣法制局では,法令文の平易化のために次のような留意事項を定めているそうである。
(法令文の平易化方策)
(1)長文化について
法令の一文が長文(400字を超えるもの)となるときは、次のような工夫をする。(中略)
イ 結論に至るまでの条件を号・号の細分で整理し、さらに必要があれば、別の条又は項として整理する。
ロ 適当な場合には、表又は式により整理する。
(2)複雑文について
法文が複雑になることを避けるため、次のような工夫をする。
イ 結論に至るまでの条件が二以上あり、かつ、その内容が複雑なものであるときには、そのいずれかの条件を号・号の細分で整理し、さらに必要があれば別の条又は項として整理する。
ロ 適当な場合には、表又は式により整理する。
(3)括弧書について
括弧書の使用については、次の点に留意する。この場合、法令番号等の括弧は数えないものとする。
イ 三重括弧以上の重括弧は用いないものとし、また、二重括弧の使用もできるだけ避ける。
ロ 括弧内の文が長いもの又は複雑なものとなる場合には、これを別項、後段、ただし書等として整理する。
(4)準用又は変更適用読替えについて
準用又は変更適用の場合にする読替えが複雑になることを防止するため、次のような工夫をする。
イ 煩雑な読替えが必要となる準用は避けて書きおろす。
ロ 複数の条又は項の準用又は変更適用の際、全体として読替えが相当数あるときは、表により整理する。
(5)定義規定等について
定義又は略称に関する規定については、誤読の防止等のため、次のような工夫をする。
イ 適当な場合には、定義規定等をまとめて、章、節等の冒頭に置く。
ロ 同じ字句を「以下第〇〇条において同じ。」等として、同じ法令で別の意義に用いることはしない。
(6)その他
定義された語を用いる際には、それが何条において定義されたものであるかを明らかにすること(クロス・レファレンス方式の採用)も検討する。