今,ふたつのことが同時に進行している。いうまでもなく福島原発事故と東北・関東大震災にかかわる問題である。しかしこれらの問題に対処すべき基本的なスタンスに大きな違いがあるように思える。
(知識)
福島原発事故は,世界にとっては東北・関東大震災をしのぐ大問題である。そしてそれを外国への情報の伝わり方の問題であると高を括っていた私たちにもジワジワと放射線による汚染が迫り,大問題化しつつある。東北・関東大震災はまがうことなき天災であるが,このようなときに福島原発事故にかかわりたくなかったというのがすべての人の率直な思いであろう。これは少なくても天災ではない。
原発や放射能の危険性については科学者や「反対派」の人から充分に知らされていたが,私はその情報に接したときはその限りで理解したつもりになるが,その場からすこし離れると,何か人ごとと思えて,分かっている人に任せれば何とかなるのではないかと軽く考えてきた。そのことに忸怩たる思いがある。
しかしこのような対応が私だけの問題ならいいが,実は現代では誰も同じ問題を抱えている。自分が使いこなせる「専門分野」以外の知見・技能はすべてブラックボックスとなっていて,ときたまその中身と接するようなことがあってもすぐに忘れてしまい,結局のところ,ブラックボックス=自分のイメージないし初心者の知見以上のレベルにはならないように思える。それほど現代は多様化し,他人の庭に入り込むのが困難となっているのだ。誰でも自分の専門分野以外について,初心者を超える中級者,上級者の知見・技能を身につけにくいのではないかと思う。しかもわが国には道を究めることに対する美学があり,道半ばの者は容赦なく切り捨てることにためらいを覚えない。それどころか切り捨てること自体も美学となっていて,某々評論家,某々経済学者の切り口鋭いといわれる罵倒は,いつまでも人気がある。手をさしのべて初級者を中級者に,中級者を上級者にすくい上げようとする者は稀である。
ところでそのようなブラックボックスとしてある福島原発事故にどのように対処すべきか。
今回の問題のポイントは,科学は分かっていないことの方がはるかに多いし,分かっていると思ったこともそもそも誤りであるかあるいは部分的な正解でしかなかったことが分かってくることの繰り返しの歴史であって,その基盤は極めて不確かであること,そのような中で原子力そのもののが極めて扱いにくいこと,さらに技術的なレベルでヒューマンエラーは絶えずおこるということであろうか。
原発のそもそも論は今は措くとしても,少なくても津波によって,電気を用いることで行おうとしていた制御がすべて出来なくなるということは,未曾有の災害の問題ではなくヒューマンエラーの問題である。空中や地上からの放水を今になって,しかも最後の手段として,安全性を犠牲にして行うということは,実に不思議な光景だ。しかも白煙,黒煙が上がる度に逃げ惑う。
しかし私は前述した理由によりこのようになったことを「人災」として非難したり嘲ったりすることはできない。あれをしろ,これをしろと,したり顔でいうこともできない。私もこの問題をブラックボックスとしてしか考えず人任せにしてきたからだ。
私に今後にできることはこの問題をできるだけ科学的な知見に基づいて正確に理解し表現すること,このような過ちをもたらさない仕組み作りを提言し実行すること,そしてあとは致命的な事態に陥らないことを「祈る」だけである。要するにこれは,知識の問題である。
〈知恵〉
東北・関東大震災は,差し迫った被災者の救援,被害から復興を果たすと共に,中長期的に私たちの仕事への取り組みや経済や社会,生活の仕組みそのものを変えていかざるをえない大きな試練あるいは建設的な歓びの場となるであろう。
まず当面は,私たちが今いる現場をしっかりとまもること,そして被災者の救援や被害から復興を担っている人たちの,①なによりも邪魔をしないこと,②邪魔をしない限りで支援(寄附)することが大事であろう。物や人力を私的に被災地に送り込むことは今は邪魔だ。行政や公的機関が混乱し,「無策」にみえても,それを建設的に指摘し将来の是正につなげることはいいとしても,いまここでは当面行政の指示に従おう。その程度の我慢はした方がいい。
そして一段落すれば,それから先は,私たち一人一人が持てる知恵すべてを動員してこれに対応することになる。これについて今から考えはじめよう。
そこで重要なことは最低限の「復興」というある意味で限られた作業については,できるだけ軽い仕組みで,集中し,迅速,かつ効率的に実行すること(それは主として役人が行うことになろうが,できるだけ民間の知恵を借りた方がいい。),その骨組みを踏まえて,各現場で各人が持てる知恵を出して少しでも創造的な仕事をしていくことであろう。
これだけ国費がいるので財政破綻するとか,不況になるとかいうのは,そもそもの方向性を間違えているのではないだろうか。
(ネガティヴな注意事項)
これから私たちの身の回りには詐欺師が横行する。募金詐欺は言うに及ばず,公的機関あるいは善意の業者を装って,検査が必要,安全設備の設置が必要,災害対策に必要等々と称して,インチキ商品を高額で売りつけるであろう。特に放射能については誰もほとんど知らないから,予想もつかないような手口も横行するだろう。
最低限の話としてクーリングオフ,民法による詐欺取消,消費者契約法の適用による無効等々による契約解消と被害回復の手段があるので,これを有効に活用しよう。
(私の立場)
私は,小沢事件の指定弁護士に選任され,これまではどうしても言動に制約があったが,このような事態を迎え,そのようなことを気にするべきではないと考えるに至った。
小沢事件は,小沢さんという政治家が,適正に政治資金を取り扱ったか否かという本来の政治資金規正法の問題に収斂していくと思える。今後そのような問題として淡々と公判に臨めばいいのだと思う。
今後はそのような職責とは関係ない地平で,できるだけのことをしていきたいと思う。